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「夜と霧」を書いた心理学者のヴィクトール・E・フランクルは、人間が実現できる価値は、
「創造価値」「体験価値」「態度価値」の3つに分類されると言っています。
「創造価値」は、人間が行動したり何かを作りだすことで実現される価値のことです。
仕事をしたり、芸術作品を創作したりする価値です。
企業のビジョン、戦略などと関連して私達が組織的な観点で価値を意識した時に使われるものです。
客観的に理解できるものです。
「体験価値」は、人間が何かを体験することで実現される価値です。
芸術を鑑賞したり、自然の美しさを体験したり、人を愛したりすることで実現される価値です。
人が自然に感じられる価値で、個人の視点で体感できる価値観です。
「態度価値」は、人間が運命を受け止める態度によって実現される価値です。
たとえ苦痛の中に於いても運命を受け止める態度を決める自由が、人間には残されているということです。
アウシュビッツで自由を奪われ極限の状況にも拘わらず、
人間らしい尊厳のある態度を取り続けた人がいる。
つまり、生きる姿勢や態度そのものに究極の価値を見出すことが出来る。それが態度価値です。
「創造価値」と「体験価値」は何となくわかるのですが「態度価値」と言うのは初めて聞いた言葉でした。
それは、現実に対する自身の「とる態度」によって実現される価値の事です。
私の母親が入院していた時に知り合った女性がいました。
彼女はご主人と一緒に会社を経営し、トラックに乗ったりしてバリバリ働いていました。
ある日、筋肉が動かなくなる病気になり、働くことは勿論のこと日常生活もままならぬ状態になりました。
人間が実現できる価値の1つである「創造価値」が奪われてしまいました。
しかし、彼女は入院生活の中でリハビリを頑張り、読書や音楽を楽しんでいました。
筋力が衰える中、歯ブラシを持った手をもう一方の手で持ちながら「これもリハビリ!」と励んでいました。
彼女は人生の流れの中で「体験価値」を実現していったのです。
大抵の場合、筋力が衰えていくしかない病に人々は失望していきます。
そんな状況の中でも彼女の場合は違いました。
ある日、私は彼女に「リハビリよく頑張りますね!」と言ったのです。
すると彼女は、「あなたは自転車を漕いでいてしんどくなったら休憩することができる。
しかし、私はあなたのように平たんな道ではなく、坂道で自転車を漕いでいるようなもの。
少しでも漕ぐ足を止めたら、坂道をずり落ちるしかないの。だから、毎日楽しんでリハビリをしているの」
その時はわかりませんでしたが、今考えると「態度価値」だと思います。
彼女の取る態度で、人生に意味が出てきたのです。
どんな状況になろうとも、その時どのような態度を取るのか。
その時息子さんはまだ学生でした。
彼女はリハビリを楽しんで、いつか家に帰る決心をしていました。
絶望の条件の中では、人生を諦める人もいます。
しかし、彼女のようにリハビリを楽しみ、家に帰って日常生活を送る目標を持つ人もいたのです。
それから30年。ある日突然電話が掛かってきました。
「年賀状ありがとう。今、私自宅に帰って来たから。家の中で車いす生活だけど」
昔と変わらぬ元氣な声で、私の年賀状の感想を言ってくれました。
彼女は諦めない態度を取り続け、徹底して出来る事に焦点を合わせ、行動し続けていたのです。
彼女は自分の人生には意味があると思い、自分の置かれた状況で「態度価値」を実現し、
目標であった自宅生活で余生を楽しんでいます。
あの頃高校生だった息子さんは福祉関係に進み、今では福祉大学の教授になられたそうです。
どんな状況に置かれても、どのような態度を取るかは自分の決断にかかっており、
その決断の自由は誰も奪うことは出来ないのです。
じゃ、また明日!